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ニューヨークの「食革命」 学校がプラントベース給食を週2で導入、政策で変わる街目指せ、温室効果ガス削減

» 2024年07月12日 08時30分 公開
[環境ライター 箕輪弥生サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)]
サステナブル・ブランド ジャパン

本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「ニューヨーク市の食革命、「プラントベース」政策で温室効果ガスを削減」(2024年6月24日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

 ハンバーガーにステーキといったこれまでの米国の食のイメージは、ニューヨーク市(以下、NY)では大きく変わりつつある。

 エリック・アダムス市長のリーダーシップのもと、NYは食品に関連する温室効果ガス(GHG)を2030年までに25%削減するために、プラントベース(植物由来)の食事を導入する政策「Plant-Powered Carbon Challenge」を推進している。

米国人の野菜の消費量は日本より多い。NY市内のスーパー「Whole Foods」には、多品種の野菜が並ぶ(写真はいずれも2024年6月、筆者撮影)

 この政策に参加するのは学校や病院などの公共施設に加え、フードサービス業者やケータリング業者、企業まで食環境を持つ全ての組織が対象だ。すでに市内病院では2023年に85万食の植物性メニューを患者に提供し、公立学校は学校給食を毎週金曜日はヴィーガン食とする「Plant-Powered Fridays」を導入している。

 NYにおいて食品は、GHG排出量の20%を占めており、建物(35%)、輸送(21%)に次ぐ大きなGHG排出源となる。食料からの排出削減をどのように進めているのか、現地NYの食に関するマーケットの状況を含めレポートする。

公立学校が週2回のプラントベース給食を導入 目を見張る、取り組みの数々

 世界全体のGHG排出量の3分の1は、食の分野によるものだ。多くの都市にとっても喫緊の課題であり、特にNYのようにレストランの数だけでも2万3000軒を超える街においては、カーボンニュートラルに向けて避けることができないテーマだ。

 2023年から始まったNY市が推進する「Plant-Powered Carbon Challenge」では、「家庭での食品消費における温室効果ガス排出の主な原因は赤肉と乳製品である」とし、「ニューヨーカーは、野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ類などの低炭素のプラントベースの製品をもっと食べることで、市の排出量を大幅に削減することができる」と提言している。

スーパーマーケットではプラントベースの総菜類も多い(Whole Foods)

 プログラムでは、2030年までに食品由来のCO2排出量を25%削減することを目標とし、植物由来の調達や、食品由来のCO2排出量を測定し、その進捗状況を毎年、市長の食糧政策オフィスに報告することを求めている。

 プログラムに先駆けて、2019年からNYの公立学校の給食では毎週月曜日に肉食をしない「ミートレスマンデー」を開始。これに加えて、2022年2月からは卵や乳製品も提供しないヴィーガン(完全菜食主義)給食も始めた。市立の幼稚園から高校まで約1700校全てが実施し、100万人近くの生徒に提供している。

 ヴィーガン食に替えたことで自らも糖尿病を克服した経験のあるアダムス市長は「学校給食におけるプラントベースの選択肢は、健康的な食事と生活をサポートし、生徒の生活の質を向上させることを意味します」とヴィーガン給食開始時の会見で話している。

NY市長による食と持続可能性における2024年4月のスピーチ(NYC Mayor's Office公式Webサイトより)

 給食メニューでは、タコス、ピザ、チーズなどを肉や乳製品を使わず大豆ミートなどの代替食品を用いて調理する。もちろん、サラダなども豊富に提供されている。

 大学のカフェテリアでもプラントベースのメニューが拡大しそうだ。2023年に最初にプログラムに公式参加したコロンビア大学では、プラントベースのメニューを従来からあるヴィーガンコーナーだけでなく、メインのコーナーでも週2〜3回提供する予定だ。

豊富な植物性食品の選択肢がそろうスーパー

 NYのスーパーマーケットでも、プラントベースの商品や総菜は豊富にそろう。代替肉のソーセージやパテはもちろん、チーズやバターなども植物性のものがラインアップされている。その他、ほとんどのレストランやテークアウト専用店舗でベジタリアン向け、ヴィーガン向けのメニューを選択できる。

植物性のバーガー肉(左、Whole Foods)、代替品のベーコンやナゲット(右、Whole Foods)
米国を代表する植物肉の企業「ビヨンドミート」の植物性ソーセージ(左、Whole Foods)、バターなど乳製品にも代替品が(右、Whole Foods)

 日本の伝統的な食品である豆腐やみそもプラントベースの重要なたんぱく源として浸透している。

豆腐はすでにNY市民の日常食になりつつある(Trader Joe’s)

グリーンマーケットやコミュニティガーデンも活発

 NY市は都市農業についても、持続可能性への取り組みとして極めて重要だとして支援している。近隣の農作物を地元で消費することは輸送によるCO2を削減し、生物多様性をサポートするからだ。

 グリーンマーケットやファームスタンドを運営する非営利組織のGrowNYCは、マンハッタンのユニオン スクエアやブルックリンのグランド アーミー プラザなど、各地でグリーンマーケットを毎週開催している。

近隣のオーガニック農家が集まるユニオンスクエアのグリーンマーケットの様子
新鮮で色鮮やかな野菜やイチゴ

 さらに、市内には住民らが野菜などを栽培するコミュニティガーデンが500以上もあり、緑を介在したコミュニティ活動が活発だ。

黒人居住者の多いハーレムのビルの合間にあるコミュニティガーデン

 食からのCO2排出削減は、生ごみの処理まで考えられている。NYは生ごみなどの有機ごみを分別回収するプログラムを段階的に導入し、2024年10月までに市内全域で展開する。

生ごみ専用のスマートコンポスト。専用アプリでロックを解除していつでもごみを捨てられる

 市内には茶色い生ごみ専用のごみ箱やスマートコンポストと呼ばれるソーラー付きのごみ箱が設置され、堆肥化施設や下水処理施設に送られ、肥料やバイオガスとして発電や天然ガスとして使われる。

 NYが大きく舵を切ったプラントベース政策は、食品に関わるマーケットを変えつつある。生産から生ごみ処理に至るまで食に関わる温室効果ガスを削減し、人々の健康に寄与する政策として、米国の他の州にも影響を与えていきそうだ。

著者紹介:Sustainable Brands Japan(SB-J)メディア・サイト

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