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なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(1/2 ページ)

» 2024年12月20日 05時00分 公開

 日立製作所が2016年にデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーである「Lumada」(ルマーダ)を立ち上げて以降、国内大手が似たようなDXブランドを設立する動きが続いている。2024年5月だけでNECの「BluStellar」(ブルーステラ)、三菱電機の「Serendie」(セレンディ)、KDDIの「WAKONX」(ワコンクロス)が立ち上がった。いずれも単なる営業ではなく、顧客の課題解決に主眼を置いているのが特徴だ。

変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜

日立製作所、富士通、NECなどの国内大手が、DXなどのデジタル関連の事業やサービスをブランド化する動きが広がっている。各社はどんな強みを持ち、日本企業をどのように変えていこうとしているのか。各社のキーマンに丁寧に聞いた。

1回目:なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす

2回目:本記事

3回目:NEC 12月23日公開予定

 こうした中で、DXだけでなくSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)も打ち出し、着実に拡大してきているのが、富士通が2021年に立ち上げた「Fujitsu Uvance」(富士通ユーバンス。以下、ユーバンス)だ。

 ユーバンスは、同社が環境問題に積極的に取り組んでいた背景から生まれた。Uvanceという造語も「あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる」願いを込めている。

 DXブランドが乱立する中、なぜSXを掲げ続けているのか。富士通グローバルソルーションビジネスグループ Strategic Planning本部長でユーバンスの事業戦略責任者を担う藤井剛氏に聞いた。

藤井剛(ふじい・たけし)経営コンサルタントとして、経営・事業戦略、CSVサステナビリティ戦略、イノベーション戦略、デジタル戦略などのコンサルティングに20年以上従事。デロイトトーマツコンサルティングにおいて2014年よりパートナー、2018年より戦略コンサルティング部門モニターデロイトのジャパンリーダー等歴任。2024年3月富士通に入社し、4月より同社SVP、グローバルソリューション Strategic Planning本部長(Uvance事業戦略責任者)に就任。大学院大学至善館のファカルティも務める

ユーバンス誕生の経緯 サステナビリティを打ち出した理由は?

――ユーバンスを立ち上げた経緯は?

 当社はもともとIT企業からDX企業への転換を打ち出していました。DXを顧客に提供するため、まずわれわれ自身が変革を実践して、良い実例になるべく「Fujitsu Transformation」こと「フジトラ」を2020年10月から推進してきました。この取り組みはDXやジョブ型の導入など、富士通自体の事業モデルの変革に取り組むという、どちらかというと社内向けの施策でした。

 フジトラによって社内のDX自体は進んだのですが、日本社会を見渡してみると「DX後進国」と呼ばれるように、思うように進んでいない現状があります。当社はパーパスに「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を掲げています。どうしたら日本社会全体のDXを推進していけるのか。持続可能な社会を生み出す上で、当社に何ができるのかを模索していました。

 こうした中、2020年に新型コロナウイルスが世界的に流行し、コロナ禍が訪れました。リモートワークなど、一気に働き方などのDXが進みました。

 新型コロナウイルスは環境破壊によって生まれたという考え方もあります。2020年6月の世界経済フォーラム(WEF)でも「グレート・リセット」(大転換)が掲げられ、サステナビリティが議論の的になりましたつまりコロナによって「未来を脅かす問題が私たちの予想をはるかに超える形で起きている」という危機感がさらに高まりました。これがユーバンス誕生のきっかけにもなっています。ユーバンスは2021年10月に発表し、翌2022年に、正式な組織本部を立ち上げました。

――SXを前面に打ち出している点が、他社のDXブランドとの違いだと思います。ユーバンスは社内でどのように定義しているのでしょうか。

 実はユーバンスは、当社ではブランドとしては位置付けておらず、事業モデルとして打ち出しています。ユーバンスの定義としては、オンクラウドで標準アーキテクチャを採用したソリューションが提供されているものや、それによってグローバル展開できるものになっているかどうかなどを基準として、ユーバンスの事業を開発、拡大しています。

 この標準アーキテクチャは、広く普及している主要なクラウドプラットフォームに加え、世の中に先行するMicrosoft AzureやAmazon Web Services(AWS)、カナダの生成AIサービス「Cohere」(コヒア)との連携などです。これにより、グローバルに事業を展開する顧客にいち早く、優れたサービスを提供できます。

 ユーバンス事業の売り上げは、事業初年度の2022年度はもともと進めていた事業を基盤として2000億円でしたが、2023年度には3600億円と大幅に伸びています。今年度の売上高は4500億円以上を見込んでいます。

――ユーバンス事業の売り上げというのは、どのように区別しているのでしょうか。

 当社のグローバルソリューションビジネスグループが主体として進めている事業を、基盤として進めています。仮に各事業部門の取り組みをユーバンスと判断する場合は、その定義に当てはまるものであるかを精査し、それに該当する商談や案件をユーバンス事業売り上げに加えるようにしています。

SXを掲げる利点

――ユーバンスのサステナビリティの定義は、どのように定めているのでしょうか。

 まず、当社でマテリアリティ(組織が優先して取り組んでいく重要課題)を経営層が定めていて、これに該当するものかどうかで判断しています。基本的には国連のSDGsなどの国際標準に準拠していて、ここから富士通らしさが出せる領域を重点的に定めています。

 ユーバンスも他社のDXブランドなどと同様、パートナー企業からの御用聞きではなく、課題を先回りして聞き取った上でのソリューションビジネスを主眼に置いています。そこには当然コンサルがあり、提供するソリューションの軸に標準アーキテクチャがあり、その標準アーキテクチャをアップデートしていくことも当社が担います。この部分は他社にも共通している部分が大きいと思います。2月には「Uvance Wayfinders」というコンサルティングブランドを立ち上げ、ユーバンスのコンサル機能も強化しています。

 他社との違いがあるとすれば、ユーバンスでは顧客との取り組みがビジネス面でのインパクトと、サステナビリティ面でのインパクトの双方に効くものであるかどうかも重視しています。顧客に提案する上では、ユーバンスの理念を必ず伝えていて、この考え方に共感してもらえるかも重要です。

――SXを掲げることで、DXと比べて顧客と理念を共有化しやすいメリットはありそうですね。

 あると思います。サステナビリティを掲げることで目標を数値化しやすい部分もありますし、地球環境に良いという大義があることで、共感してもらいやすい利点もあると思います。サステナビリティを大義として掲げることで、共感を得やすいですし、ビジネス面でも顧客と中長期的な目線で市場を作っていくことができます。

 社会課題を解決するには、従来の業種や企業単位では到底解決できないものばかりです。ユーバンスによって企業や業種を超えてデータをつなぐことによって新たな知見を得て、新たな価値創出をすることも狙いとしています。そのような市場は2025年までにグローバルで約25兆円に成長すると試算しています。このクロスインダストリー(異業種連携)の考え方もユーバンスでは重視しています。

「Fujitsu Data Intelligence PaaS」(DI PaaS)

――SXを掲げたことで、うまく進んだ事例はあるのでしょうか。

 SXに向けたクロスインダストリーがユーバンスの発想としてあり、業種や企業を超えたデータ統合力がユーバンスの強みです。実際にこれがうまく働いた事例が、足元で急速に増えています。その起点となった事例として、ある大手製造業の例があります。この企業はグローバルに3000社のサプライヤー、18の工場、20の既存システムで20万以上のパーツ数を管理しており、その全オペレーションの効率性とレジリエンスの向上を課題としていました。

 当社はこれに対して「Fujitsu Data Intelligence PaaS」(DI PaaS)によるデータ統合を、既存のシステムを停止せずに、数週間で実現しました。このDI PaaSは、データ統合や分析をオールインワンでできるプラットフォームで、富士通のAIサービスである「Kozuchi」(コヅチ)も提供しています。データ統合によって在庫状況や流通状況を可視化したことによって、サプライチェーンマネジメントの業務量を5割削減しました。

 さらにAIによって、300種類のパーツの需要予測を2カ月かけて最適化し、全体として2桁億円のコスト削減を実現しています。このように業種や企業を超えたデータを短期間で、大きな事業改革ができるのがユーバンスの強みと言えます。サプライチェーンと表裏一体でCO2排出量をはじめとするESG課題も可視化されます。現在このソリューションをDynamic Supply Chainオファリングとして標準化し、100社以上に展開しています。

 8月には米スタートアップのParadigm社と、ドラッグロスに向けた戦略的パートナーシップ締結を発表しました。ヘルスケア業界と製薬業界を超えた価値創造プラットフォーム構築の事例などがあります。

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