NECが、グローバル化とカルチャー変革に挑んでいる。28歳から33歳まで米国に駐在した経験のある森田隆之社長は「インクルージョン&ダイバーシティー」を経営や事業における成長戦略と位置づけ、その重要性を世界11万人のNECグループ社員に呼び掛けてきた。同社ではインクルージョンが発揮されて初めてダイバーシティに価値があると考え、あえてインクルージョンをダイバーシティの前に置いている。
森田社長は社長就任以前、2018年からCFOを務め、2020中期経営計画の達成にむけた収益構造改革を指揮。多くのM&A実行を通じて、成長戦略を後押ししてきた。
2011年から7年間、海外事業責任者も経験。M&Aなどの事業ポートフォリオの変革案件を多く手掛け、半導体事業の再編や、PC事業における合弁会社設立、コンサルティング会社の買収などを主導してきた実績がある。
森田社長はNECのかじ取りをする中で、不採算事業や非中核事業の整理・撤退を進めてきた。業界や事業の未来をいかにして見通しているのか。前回の記事【NEC社長に聞く「生成AIとセキュリティの関係」 真のAIエージェントとは?】に引き続き、そのヒントを聞いた。
――NECは多様性を重視した経営をしています。女性活躍についてはどう考えていますか?
日本の大手企業はどこもそうですが、日本人の、特に男性が多い傾向があります。そうするとやはり、すでに出来上がったマインドセットがあるので、この変化が大きい世の中で(その考え方だけでは)対応していけません。「違う考え方に従え」というわけではなく、違う考え方を取り入れながらチャレンジすることによって、その人にとっての気付きを得ることにもなります。思わぬ落とし穴にはまらないという効果もあります。そのためには、多様性を常に頭の中に置いておかなければならないと考えています。
私も女性や外国人の部下に随分、助けられました。自分に対して「それは違いますよ」とはっきり言ってくれます。冷静に考えると「そういうこともあるかもしれない」と気付くことがありますし、(そういったやりとりを)楽しめるようになると、逆にきちんと指摘してほしいと思うこともあります。
これは、当社のコーポレートガバナンス改革にもつながっています。現在、女性の取締役は13人中3人です。全て社外の女性取締役です。(女性を)受け入れる風土というより、受け入れないと、企業として競争に勝っていけないと考えています。競争力を高めるための必須条件だと思います。
――森田社長はNECのポートフォリオを見直し「短期利益の最適化と長期利益の最大化」を進めてきました(関連記事を参照)。これまでM&A実行も含めて、経営者として結果を出されてきたわけですが、事業の将来をどのように見通してきたのでしょうか? 「先を見通す力」の秘訣を教えてください。
事業の構造だけではなく、競争原理を見ることも非常に大事です。どこが戦うフィールドなのかを見ること。これは割と難しいものではありません。変化というのは非常にゆっくりと起きるものです。過去には「モノからコト」「ソフト化、サービス化」のように言われましたが、実際にその変化が過半に達するまでには、一定の時間がかかります。一方で、その変化が目に見えるようになってから動いていたのでは遅い。これもまた事実です。
NECではかつて携帯電話、PC、サーバが全て別物で、事業部も違っていました。しかし、変化に対応するためには別々に戦略を考えるのではなく、一体として考えることが大事ですね。
そしてNECが戦っているフィールドは、グローバルなんです。だからそれまでは参入障壁があったとしても、時間軸を外してみると、グローバルで通用する競争力を持てなければ事業継続が難しいこともあります。では当社は(その時点のその事業において)グローバルで通用する競争力を持っているのか。逆にグローバルな競争力を時間内に勝ち取るためには、どういう方法があるのか。こういう考え方をしないと手遅れになってしまいます。
だから、その産業の持つ構造やゲームのルールを理解すべきなのです。知財がキーになっている領域もあれば、顧客とのリレーションがキーになっている領域もあります。どこがそのキーになっているのか。それを見極めることが、ものすごく大事です。
先を見通すことは、割と難しくないと思います。ただ、なかなかその時の現状からすると(変化を)認めたくないという自分も出てきます。「まだ時間がある」「日本は特別だ」「この業界は特殊だ」。こうした考え方ですね。そうならないように「本当にそうなのか?」と、自分にいつも問いかけています。
1回目、2回目に続けて3回にわたってインタビューを届けてきた。【NEC社長に聞く「生成AIとセキュリティの関係」 真のAIエージェントとは?】で森田社長が指摘したように「いまはAIの黎明期」だ。AI関連のビジネスチャンスが訪れる中、どれだけ顧客の業務効率につながるサービスを生み出していけるかがNECに問われている。
森田社長が述べたように、今後求められるのは「良いところがあれば、他社の技術も取り入れていくハイブリッド型」だ。全てを自社技術で賄うのは、技術進歩が激しい今の時代では難しい。どの技術でどの相手と連携し、どの技術を相手に提供するか。そして、いかにして自社ブランドを守っていくか。重要になってくるのは知財ノウハウとパートナーとの関係だ。
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