世界を変える5G

なぜドコモで「つながりにくい」問題が起きているのか 明かされた根本的な要因

» 2023年04月27日 10時41分 公開
[田中聡ITmedia]

 ドコモの通信が遅い、つながりにくい――。ここ数カ月、SNSや周囲でこのような声を聞くことが増えた。

 筆者もドコモ回線を持っているが、3月下旬に都内で4G接続時の速度を測ったところ、下りで1Mbpsも出ないことがあった。上りはさらに低調で、0.1Mbpsも出なかった。自宅(都内近郊)でも4Gで下り1Mbps程度だったり、上りは計測中にタイムアウトしたりすることもあった。

ドコモ 3月〜4月にかけて、屋内外で計測したドコモの通信速度。下りが1Mbps前後だったり、上りが1Mbpsも出なかったりすることもあった

 一体、ドコモのネットワークで何が起きているのか。同社は4月26日に5Gネットワーク戦略に関する説明会を開催したが、その質疑応答では、このネットワーク品質の低下に関する質問が集中した。

ドコモ 質疑応答に答える、無線アクセスネットワーク部長の林直樹氏(左)とネットワーク部長の引馬章裕氏(右)

瞬速5Gのエリア拡大が追い付かず、4Gのトラフィックが増大

 ドコモも「つながりにくい問題」は把握しており、「特に都市部の混雑しているところで通信速度が低下していることを認識している」とネットワーク部長の引馬章裕氏は話す。速度低下の主な要因として、同社は「トラフィックの増大」「瞬速5Gエリア拡大の遅れ」「再開発などによるエリア変動」「特定周波数の逼迫(ひっぱく)」の4つを挙げる。

ドコモ 昨今の通信品質の低下は、5G展開の過渡期における課題だとし、4つの要因を挙げる

 トラフィックは、5Gサービスを開始して以降、SNSや大容量コンテンツなどの利用によって右肩上がりに増加している。こうした増大するトラフィックをさばくために、ドコモが「瞬速5G」と呼ぶ、新周波数帯を活用した5Gのエリア拡大を進めている。

 しかし瞬速5Gの基地局設置が追い付かず、4G周波数の容量が逼迫(ひっぱく)する事態に陥っている。無線アクセスネットワーク部長の林直樹氏は「全てのトラフィックが4G側に乗ってしまい、時間帯によっては通信速度が低下する事象がある」と述べる。特に多くのユーザーを抱える都市部が影響を受けており、「東京だと山手線沿線などの市街地」「新宿、渋谷、池袋、新橋などの主要駅」(林氏)などが該当する。

ドコモ トラフィックの集中する都市部で瞬速5Gを拡大しているが、それが十分でないために、4Gへの負担が増してしまっている

 再開発が進んでいる地域では、基地局を撤去する必要があることに加え、新しいビルができると人が集まってトラフィックも増大する。「ビルの遮蔽(しゃへい)などがあり、もともとカバーしていた基地局から違う基地局にトラフィックが流れる」(林氏)というドコモの想定しない動きもあったようだ。

 特定周波数の逼迫については、屋内でつかみやすい800MHz帯が影響を受けているという。そこで、800MHz帯以外で空いている周波数があれば、そちらに移行するようチューニングをかけている。

ドコモ 屋内では800MHz帯に集中しないよう、接続する周波数を分散させる

 なお、品質低下の影響規模について、林氏は「場所や時間帯にもよるが、どれぐらいの人数に影響があるかは一概には言えない」と述べるにとどめた。発生時期については「ここ数カ月、この事象が増えてきた」(同氏)との認識だ。

 ドコモでは、5Gサービスを始めた当初の2021年に、5Gエリアの端(セルエッジ)や電波強度の悪い場所などで4Gから5Gに切り替わらず、通信速度が遅くなる「パケ止まり」という事象が発生していた。そこで同社は5Gエリアの拡大や5Gと4Gを最適に組み合わせるチューニングをすることで解消に努めてきた。しかし、そのチューニングによって4Gのトラフィックが増大したことで、通信品質の低下につながったようだ。「引き続き、セルエッジではいろいろな観点から対策を進めている」(林氏)

「4G周波数の転用」や「home 5G」は通信品質低下に直接の影響なし

 ドコモは2022年春から、4Gで使っている周波数の一部を5Gに転用しているが、この件は通信品質の低下に影響していないという。「トラフィックが多いところには、新しい周波数を追加している。トラフィックが多くないところを効率的に実施(エリア化)するために、既存の4Gを利用している。4G転用によって4Gが影響を受けないように計画して進めている」(林氏)

 また、固定通信の代替サービス「home 5G」でのトラフィックが増大したことの影響もあるのか、という点については「home 5Gは設置場所が把握できているので、対策をしている。それによって今回の事象が起きているわけではない」(林氏)とのこと。

 基地局に複数のアンテナを設置してより大容量のトラフィックをさばける「Massive MIMO」の導入が足りていないことも一因のようだ。「(Massive MIMOが)容量的にも速度的にも、優れた面があることは認識している。これまで導入できていないところはあるが、他社が導入しているということはうかがっているので、しっかり使っていかないといけない」(林氏)

なぜドコモだけ通信品質低下が顕著なのか

 ドコモで起きた通信品質の低下は、auやソフトバンクでは大々的な声は挙がっていない印象だ。トラフィックの増大やエリア変動などの外的要因は、ドコモに限った話ではない。なぜ、ドコモだけここまで問題が大きくなってしまったのか。

 林氏は「特にドコモの品質の声が大きいとは認識している」と述べながら、「エリアのチューニングが不足していたこと」を要因に挙げる。外的要因というよりは、増大するトラフィックに対して瞬速5Gの拡大を進められていないドコモのオペレーションに問題があったようだ。

 「基地局は民間ビルの屋上を使っているので、そのオーナーさんとの契約の検討、設備を増やすための検討に時間を要している。予定通り完成していれば対応できたところもある。瞬速5Gの展開の早急な実現を目指していきたい」(林氏)

ドコモ 都市部では、瞬速5Gの基地局を既存の4G基地局へ併設することで品質改善を試みる

 通信品質改善に向けて、ドコモは5G基地局のカバーエリアを調整することで全体のトラフィックをバランスよく吸収するとともに、特定の周波数に偏らない分散制御を入れる対策を進めていく。これを「急ピッチで行い、2023年夏までにはしっかり解決していく」と引馬氏は述べた。

【更新:2023年4月29日10時00分 改善策について、一部加筆修正しました。】

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