低軌道衛星(LEO)を活用し、エリアを国土全体に広げる取り組みがいよいよ本格化している。KDDIは、4月に「au Starlink Direct」をスタート。auユーザー限定で、まずはRCSを含むメッセージサービスを開始した。夏以降には、衛星の拡充などに合わせてメッセージ以外のデータ通信も開放していく構えだ。現時点では、サブブランドには対応していないが、auユーザーであれば無料で利用できる。
Starlinkとの提携でサービスの早期導入に踏み切ったKDDIに対し、楽天モバイルは、創業時から出資していたAST SpaceMobileの衛星を使い、2026年第4四半期(10月から12月)に「Rakuten最強衛星サービス」を開始する予定を明かした。以前から導入は表明していたが、4月の発表会では日本での実験結果を披露するとともに、サービス名も公開した格好だ。では、楽天モバイルのサービスはKDDIとどう違うのか。技術面やビジネスモデルから、その差を解説していく。
「ブロードバンドで面積カバー率100%を実現する」――こう語ったのは、楽天グループの代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏だ。直接名前こそ挙げなかったものの、これは競合のStarlinkを意識した発言。Rakuten最強衛星サービスが使うASTの低軌道衛星「BlueBird」なら、メッセージや低速のデータ通信ではなく、動画やビデオ通話もできるブロードバンドで国土全体をカバーできるという。
三木谷氏も、「ブロードバンドなのでYouTubeの動画視聴やビデオ通話ができる」とそのメリットを語っている。これが可能なのは、「衛星が非常に大きい」(同)からだ。BlueBirdの面積は、展開すると約223平方メートルと巨大で、小型のStarlinkと比べるとスマホや携帯電話から発信された電波をキャッチしやすい。下りはもちろん、上りの電波もキャッチしやすいということだ。
三木谷氏も、「ここが競合企業との抜本的な違い」と語る。実際、発表会では福島県で市販のスマホをBlueBird経由でネットワークにつなぎ、東京都の会場にいた三木谷氏とビデオ通話をつなげたが、映像や音声が途切れることはなかった。現時点では、打ち上げられている衛星が5基と少ないため、接続できる時間は限定されるものの、ASTではサービスインに向けてこれを50基に拡大していく方針。この数でも、1時間に4分程度は切断されるというが、ほぼ常時接続に近い状態になる。
Starlinkの直接通信では、端末が接続する衛星が次々と切り替わり、その都度ハンドオーバーする必要があり、品質が低下しやすい。これに対し、Rakuten最強衛星サービスでは「ハンドオーバーも極めてスムーズ、あるいはハンドオーバーはほとんどしない」だという。これは、ASTのBlueBirdが、基地局ではなく、電波を中継するレピーターとして「電波を鏡のように反射させている」(同)からだという。そのため、端末側からは、1つの基地局に常につながっているように見える。
衛星は常時移動しているが、電波を発射する角度をリアルタイムに変えていき、エリアを固定。これが届かなくなったら、次の衛星でエリアを作るという具合だ。Starlinkは衛星1つ1つに基地局の装置を乗せ、上空で信号の処理も行っているのに対し、ASTは受け取った信号をいったん地上に送る。信号を処理するベースバンドに相当する機能や衛星経由の信号を補正する機能は、全て地上局に備えられるという。
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