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トランプ政権下で「多様性施策をやめる米企業」が続出……日本企業が取るべき対応は?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2025年01月24日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 1月20日に2度目の就任を果たした米国のトランプ大統領が、世界の注目を集めている。

 同氏の「性別は男と女だけ」という考え方に追随するかのように、これまで米国のグローバル企業が重視してきたDEI(多様性、公平性、包括性)目標を撤廃、または縮小する動きが相次いでいる

 この流れには米国内で賛否が渦巻き、一部では「DEIの考え方が受け入れられない人」の人格を否定するといった「逆差別」の問題が再燃するに至っている。米国の最高裁が大学入試において一定の人種が合格しやすくなる優遇施策を違憲と判断したことに起因するようだ。

 実際に、日本にも膨大な顧客基盤を有する大手グローバル企業数社がすでにDEI施策を縮小している。著名な米国企業であるMcDonaldやMeta、Harley-Davidsonなどだ。また、日本企業もトヨタ自動車や日産自動車がDEI施策を縮小すると発表している。単にトランプ政権に歩調を合わせるという意図だけでなく、司法判断を踏まえての動きでもあるように思われる。

 現時点で、日本の主要企業や経済同友会などは方針変更を打ち出しているわけではない。しかしながら今後、全世界的にDEI施策が見直されることがあれば、日本企業はどのように対応すべきだろうか。

「DEI」と「紙ストロー」の類似点

 そもそもDEIは、企業が多様な人材を受け入れ、公平な機会を提供し、あらゆる立場の従業員が能力を最大限に発揮できる環境を育む理念として、近年とりわけ重視されてきた。

photo 多様性、公平性、包括性を意味するDEIは近年、企業活動においても重視されてきた(提供:ゲッティイメージズ)

 世界的な投資家がESG評価の一環として企業のDEI施策を注視する風潮もあり、SDGsの文脈においても必須と見なされてきた。株主や顧客のみならず、労働力確保の観点からも必要性が認識され、これまでは日本企業も積極的に取り組むケースが目立っていた。

 では日本企業は今後、DEI施策廃止の流れに追随するのだろうか。これについては「紙ストロー」の事例から一定の示唆を得られる。

 消費者の間でも賛否が分かれる「紙ストロー」はもともと、欧米における環境意識の高まりを受けて採用が促進されてきた。

 しかしその後、導入コストや利便性の問題、またストロー以外の石油由来製品を使用し続けているという矛盾に関する指摘などからスターバックス コーヒー ジャパンが使用を取りやめると、2024年末から国内で紙ストロー撤廃の流れが見られ始めている。

 この経緯を鑑みると、日本企業がDEIを重視しなくなるのかという点についても、特に海外売上高比率の高いグローバル企業を中心に縮小していく可能性が高いのではないかと考えられる。

 そして、大手企業がそれを縮小するのであれば、中小企業がわざわざコストをかけて保持するインセンティブも薄れるだろう。

“海外任せの意思決定”は信頼をなくす

 こうした“海外任せ”の意思決定は、企業として一貫した価値基準を欠き、消費者や投資家の混乱を招きかねない。DEIに関しても、海外投資家の圧力によって方針を二転三転させるようなことがあれば、企業の信頼が揺らぐリスクは大きい。

 DEI施策は従来、企業が社会的責任を果たし、多様な価値観を尊重していることを示すシンボルでもあった。それが急に翻意されたとなれば、社会全体に「これまでの取り組みは形式的だったのか」「企業の姿勢は外圧次第で変わるのか」といった疑問を与えかねない。

 特に若年層は、多様性や公平性への関心が高く、彼らの企業選択や商品選択においてDEIが一つの判断基準となりつつあることを無視できない。安価な商品を扱う通販サービスでも、安さの背景に「人権を無視した強制労働が存在する」といった疑いがあれば、注文を避けるという考え方も散見される。

 また、消費者だけでなく投資家から見ても「外圧次第でコロコロと方針を変える企業」という印象が残れば、企業ガバナンスが弱いのではないかと疑われる恐れもある。短期的に大手企業の流れに乗ったつもりでも、長期的には不安定な経営姿勢としてマイナス評価されかねない点は注意が必要だ。

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