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トランプ政権下で「多様性施策をやめる米企業」が続出……日本企業が取るべき対応は?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2025年01月24日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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日本企業はどう立ち回るべき?

 企業がこうしたリスクを回避し、社会的信用を維持するためには、まず自社の価値基準と目標を明確化することが不可欠である。

 そもそもDEIに取り組む意義がどこにあるのか、企業としてどの程度までコミットするのかを社内外に示すことで、仮に外部の潮流が変化しても、方針に大幅なブレが生じにくくなる。

 具体的には、採用や人事評価で一定の多様性目標を設定したり、経営陣が率先してDEI推進に関する具体的な指標を提示したりなど、形として分かりやすい施策を講じるとよい。

 経済同友会などが掲げている多様性推進の呼びかけとも連動すれば、業界全体での共通認識を形成しやすくなるだろう。重要なのは、海外や投資家の動きに迎合するのではなく、自らの経営理念に基づいて「DEIのような考え方をどう位置付けるか」を明文化することである。

 一方で、米国を発端として世界的にDEI施策撤廃の考え方が支配的になった場合は、全く無視して行動するわけにはいかない。

photo 米国をはじめ諸外国が変化したとき、日本企業はどう対応すべきか(提供:ゲッティイメージズ)

 そこで求められるのが、短期的には世論や投資家の声に柔軟に対応しつつ、長期的には企業の独自ビジョンに基づいて独自のDEI的な考え方を位置付けるという二段構えのアプローチを用意する“したたかさ”ではないだろうか。

 例えば、特定の人材層を優遇する施策の是非については、社会状況を踏まえて柔軟に検討しながらも、最終的に目指す多様性の水準は維持し続ける。

 こうしたメリハリがある経営姿勢は、短期的な環境変化に対応する柔軟性と、長期的なビジョンへの一貫性を両立させる上で効果的である。

主体性のある判断を

 米国で浮上しているDEI施策撤廃の動きはまだ一部に限られ、世界全体の潮流が一気に逆転したわけではない。それにもかかわらず、日本企業が仮に外圧や投資家要請のみを優先して大幅な方針転換を行えば「主体性の欠如」という批判にさらされるだろう。

 紙ストローの導入と撤退のように、海外任せで取り組みを始めて、結局は海外の撤退に追随するという構図を繰り返しては、企業イメージが損なわれるリスクも大きい。

 今後、政治的対立や社会情勢によってDEI施策に対する評価が揺れ動く可能性は高い。だからこそ、企業には自社の経営理念に根ざしたぶれない方針と、社会の声を柔軟に取り入れるバランス感覚が求められる。

 日本企業がこの局面で主体性を発揮し、短期的な利益や外部環境の変化に左右されずに“多様性を尊重する企業文化”を醸成できるかどうかが重視されるだろう。経営者は外部圧力や仮説に振り回されることなく、自社の長期価値を見据えた考え方を継続・進化させていく責任があるといえる。

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