攻める総務

「この仕事、意味ありますか?」 後輩総務の質問、100点回答に不可欠な視点とは「総務」から会社を変える

» 2025年02月18日 08時30分 公開
[豊田健一ITmedia]

 「この仕事、意味ありますか?」――先輩社員にとって、この質問は恐ろしい。

 正面切って、「このような意味がある」ときっぱり説明できる先輩はどれほどいるだろうか? 自分もその仕事を先輩から引き継ぎ、何も考えず黙々と処理してきていたとしたら、「この仕事、意味ありますか?」には正しく答えられない。

 「昔からやっているから……」と動揺しながら答えるのがやっとかもしれない。

「この仕事、意味ありますか?」への100点の回答は何だろうか(画像:ゲッティイメージズより)

 総務には、この手の仕事が多い。そもそも、少人数で膨大な仕事を処理しなければならず、引き継ぎも「後は、この手順書や昔の書類を見てやっておいて。分からなくなったら声かけてね」と後任任せなことが少なくない。

 引き継ぎを受ける段階では、その仕事の意味を考える余裕すらない。ただ、同じようにできることが目的となる。あれこれ改善案を考え、質問しても、先輩はもうその業務から離れるため他人事。「先輩も忙しそうだし……」とこれまで通りに収束していく。

 そして仕事に慣れたころに、はたと「これって、意味のある仕事なのだろうか?」と気付く。しばらくはもやもやした状態で仕事を続けていくが、「何のため? もっとやりようがある気がする」と悩み、冒頭の質問が繰り出される。

「この仕事、意味ありますか?」  80点の回答は?

 先述の質問への80点の回答は「この仕事はこの仕事につながっている。だから重要」という説明だ。この回答をするためには、常に自分の仕事の意味を考えておく必要がある。では、この回答にたどり着くための思考プロセスを紹介しよう。

 まずは業務改善の王道、止めてみることだ。その仕事を止めても誰も困らなければ、そもそもやる意味のない仕事だと分かる。必要不可欠な仕事なのであれば、次は最短距離で処理できないかを考える。現在の対応がオーバースペックということもある。一顧だにされない、経営会議向けの資料作成など無駄な仕事も数多くある。

 最短距離で処理できている業務はたいてい標準化されている。システムへの置き換えや外部委託が例だ。業務改善の第一関門は仕事の意味を捉え直すことで、非常に重要だ。

 総務の仕事は、インプットを受けて、自身が加工し、アウトプットを次の工程の人に渡すことが多い。そのインプットに当たるものが、情報である。現場からの依頼、上司からの指示、自身の気付きといった情報を基に対処方法を考える、発注先を探す、企画を立案していく。これが情報の加工に当たる。総務は、情報取り扱い産業でもあるのだ。

 情報は、インプットを受けた人に戻したり、外部に依頼したりしてアウトプットしていく。情報を受け取った人は、次のアクションに取り組む。そして、次の工程に引き渡していく。

 総務の仕事は、社内の不満や質問といったインプットを加工し、アウトプットするつながりのある仕事だ。自身でも常にその視点を持っておく必要がある。そうでないと、「この仕事、意味ありますか?」への納得のいく回答は生まれてこない。

100点回答は「どこまで」の視点がある

 「大事なのは、何をしているのかではない。その仕事のその先に、何を思い描くか。それにより、その仕事の価値が決まる」という言葉がある。

 3人の石切職人の話を知っている人もいるだろう。3人の石切職人が忙しそうに石を斬っている。そこに現れた旅人が「あなたは何をしているのですか?」と尋ねる。

 1人目はつまらなそうな顔で「お金を稼ぐために石を切ってるんだ」と答え、2人目は無表情に淡々と「1番の石切職人になる技術を身につけるんだ」と答え、3人目は空を見上げ、目を輝かせながら「教会を作っているんだ。私が作った教会で多くの人が集まり、安らぎの場となるんだ!」と答えた。

 100点の回答には、アウトプットを受け取る人に対しての意味ではなく、その仕事の最終着地点までイメージした視点が盛り込まれている。

 ゴールに対する共通のイメージを持てることで、認識の齟齬(そご)や無駄なコミュニケーションは減らせる。結果、現場は本業に特化できることで、現場の生産性やエンゲージメント向上、ひいては業績にもつながる。このコミュニケーションを積み上げることで、会話の中で現場の課題が明らかになることもある。それにより、さらにより良い職場環境が創造できるのだ。

 「いまの仕事はここにつながってる。そしてそれにより現場が喜び、業績が向上する」といった答えが返せれば後輩のモチベーションアップにもつながる。自分の仕事が会社の未来につながっているというイメージが描けるようになれば、後輩の方から業務改善のアイデアが生まれるかもしれない。

 逆に、ゴールまでのつながりが見えない仕事であれば、一度「止める、減らす、変える」で見直ししてみてはどうだろうか。「この仕事、意味ありますか?」と後輩に聞かれる前に、先輩には「自分のやっている仕事、意味あったっけ?」と自問自答してみてほしい。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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