AIは今日のマーケターの関心を集め続けている。家庭向けおよび業務用のAI搭載PCを展開し、自社のマーケティング組織にもAIを活用しているLenovoにとって、AIは常に身近な存在である。
Lenovoのインテリジェント・デバイス部門およびグローバル市場におけるCMO(最高マーケティング責任者)兼シニアバイスプレジデントであるエミリー・ケッチェン氏は、こうした背景を踏まえ、「マーケティング機能がAIと共に生き、呼吸する存在でなければならない」と語る。AIが人の仕事を奪うという懸念にとらわれるべきではないという。
「時代に遅れず、常に注目し、どう活用すべきかを理解する必要があるのです」と、ケッチェン氏は述べる。
HPで約10年、さらに広告代理店での豊富な経験を経て2020年にLenovoに加わった同氏は、AIがかつて話題となったメモリ技術や5Gと同様に、やがて日常の一部となる技術になると見ている。
今回はエミリー・ケッチェン氏に、マーケティングの優先順位のバランス、AIの導入方法、そして不確実な時代における柔軟な対応について話を聞いた。
──異なるターゲットに対し、Lenovoのブランドをどのように表現していますか?
エミリー・ケッチェン: たとえB2Bの文脈であっても、「心をつかめば、思考もつかめる」という考え方が基本にあります。私たちは常に、お客さまが気付いていないニーズを先取りする形で製品を開発し、その価値を訴求することを意識しています。つまり、消費者がまだ知らない製品カテゴリーそのものを創出しているのです。
例えば、当社のAI搭載PCは、30年に一度とも言える画期的な製品カテゴリーの創出機会です。消費者も法人顧客も、まだAIが搭載されたノートPCを体験したことがないため、自分たちに何が必要かすら分かっていません。
B2Cは「一対多」や「一対全体」が基本ですが、B2Bは「一対一」に近く、メッセージをよりパーソナライズできます。AIという新たなカテゴリーを打ち出す際には、その利点が何であり、他のテクノロジー企業と比べてLenovoがどう差別化されているのかを明確に伝えることが重要です。
──AIをマーケティングチームにどのように導入したのですか?
エミリー・ケッチェン: 私たちは社内に「AIガバナンス委員会」を設置しました。セキュリティ部門や法務部門など、関連する組織とも密接に連携しています。その上で、マーケティング担当者に対して「何をもっと学びたいか」をヒアリングし、それに基づいてオーダーメイドの11ステップ学習プログラムを策定しました。有名なAI教育者を招き、企業向けライセンスの取得から活用方法までを体系的に学べるようにしています。AIを活用してマーケティングするには、まずAIそのものを理解する必要があります。
同時に、当社の製品が持つ差別化要因を、顧客にとってどのような利点があるかという文脈で伝える取り組みも進めました。スローガンの「全ての人に、よりスマートなテクノロジーを(Smarter Technology for All)」を、「全ての人に、よりスマートなAIを(Smarter AI for All)」に発展させ、さらにコンシューマー向けには「あなたのための、よりスマートなAI(Smarter AI for You)」へと展開しています。
──F1やFIFAとのブランドパートナーシップはどのように展開していますか?
エミリー・ケッチェン: まず、パートナーシップに関する明確なフレームワークを導入しています。企業同士の連携において、目的と価値観の整合性が取れているかをしっかり確認します。ここがずれてしまう企業もありますが、私たちはそこを重視し、ストーリーテリングを可能にする関係性を築いています。
そのストーリーをどう伝えるかも重要です。ソーシャルメディア、広報、社内コミュニケーションなどを通じてどう活用するか、従業員のエンゲージメントはどう高めるか。さらには、イベントを通じて顧客をどのように巻き込むか、といった全体の設計が求められます。
企業にとって、こうしたスポンサーシップは大きな投資ですが、私たちは厳格な評価基準を設けています。ブランド属性、ブランドトラッカーでの測定、広告代理店と連携した競合分析など、定量・定性の両面で継続的にチェックしています。
──F1との取り組みでは、このフレームワークをどのように生かしていますか?
エミリー・ケッチェン: F1は、精密さと技術力の観点で、世界で最もテクニカルなスポーツです。ドライバーの準備からマシンの構成、イベント運営に至るまで、全てが技術の結晶です。
例えば、最近の上海グランプリでは、当社の最新製品「ThinkPad X9 with AI」がF1チームによって導入され、技術的な限界に挑戦しています。F1は年間40週、24の開催地を巡回する世界規模のイベントです。レースに合わせて地域ごとのマーケティングを展開することで、各地域のチームも創造的な挑戦を重ねています。
──F1でのプロモーション事例にはどのようなものがありますか?
エミリー・ケッチェン: 日本・渋谷のスクランブル交差点では、13面の大型ビジョンでF1カーが駆け抜ける30秒間の映像広告を同時上映しました。地上ではエンジン音も鳴り響くという演出でした。
ロンドンのピカデリー・サーカスでは、3D映像でF1カーが看板から飛び出して回転するアウト・オブ・ホーム広告を展開しました。このように、自社のマーケティング表現をより高度に洗練させる努力を続けています。
F1との提携開始以降、観客数は5億人から7億5千万人へと増加しました。特に成長している層はZ世代と女性ですが、CIO(最高情報責任者)やCレベルのエグゼクティブも多く存在しています。私たちはF1ファン層と、CIOやCTOのような意思決定者、両方にリーチしたいと考えています。
そのため、AIを活用した文脈ターゲティング技術「Seedtag」を用い、これら2つのターゲットを同時に精度高く絞り込みました。その結果、ターゲットリーチの効率は55%向上しました。
──不安定な環境の中で、マーケティング機能をどのように機動的に活用していますか?
エミリー・ケッチェン: 柔軟性こそが鍵です。世界情勢が変化するなかで、先回りして対応するのは私たちの責任です。他社と同じように、状況を注視し、行動し、先を見据えています。
そのためには、組織内に「開かれた姿勢」を示すことが大切です。どこからでも良いアイデアは生まれるという考え方を体現し、リーダーシップにおいても機動性と積極性を示す必要があります。
今では、以前よりもうまく対応できていると思います。新型コロナウイルスが蔓延したときには「ピボット(方向転換)」が求められましたが、その経験で培った柔軟性は、今も大いに役立っています。そして私たちは、Lenovoの強みである「イノベーション」に立ち返るのです。
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