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夫婦ともに「年収700万円」超 SMBC×SBI新会社は、なぜ“新興富裕層”に目を付けたのか?「Olive」の進化系新サービス(1/2 ページ)

» 2025年06月19日 06時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

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 サッカー世界大会への特別招待や最大6%のポイント還元を実現するメタルカード――。日本で初めてVisa最高ランク「Visa Infinite」を採用した究極のクレジットカードが、総合金融サービス「Olive」の最高峰として登場する。

 三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)とSBIホールディングスが6月16日発表した「Olive Infinite(オリーブ インフィニット)」は、デジタル富裕層向けの革新的金融サービスとして2026年春に開始される。両グループは新コンサルティングサービスを提供する新会社を共同設立し、5年後に資産運用残高10兆円、預金残高10兆円の達成を目指す。

 新会社は2025年7月設立予定で、SMBCグループが60%(三井住友FG10%、SMBC日興証券30%、三井住友銀行20%)、SBIグループが40%(SBIホールディングス10%、SBI証券30%)を出資する。当初資金は30億円程度を予定している。

 政府の「資産所得倍増プラン」により個人投資マネーが急拡大する中、金融各社はデジタル化対応を迫られている。今回の取り組みは手数料競争から体験価値競争への転換点となり、業界の競争構図を大きく変える可能性がある。

6月16日の記者会見の様子

 ターゲットは年収700万円以上の共働き夫婦など「デジタル富裕層」と呼ばれる新興顧客層だ。スマートフォンで投資や資産管理をして資産を増やしている一方、従来の対面証券では時間的制約があり、純粋なネット証券では専門的相談ができないという課題を抱えていた。三井住友カードの大西幸彦社長は「これまでにない次元の体験を提供する」と強調した。

 「デジタル富裕層」とは具体的にどのような人々なのか。なぜSMBCとSBIは「デジタル富裕層」に狙いを定めたのか。

「Olive」を究極深化させた新サービス、何がすごい?

 新サービスは、2023年3月の開始からわずか約2年で600万口座を突破し、SBI証券での投資信託積立が年間1兆円規模の勢いで成長している総合金融サービス「Olive」の最上位プランと位置付ける。

Olive Infiniteのサービス構成。高還元のカードと低コストのネット証券という経済性に、「異次元の体験価値」と「専門コンサルティング」という対極的な要素を同時に実現しようというのがこれまでにない試みだ

 新サービスの核心は2つある。第一は日本初となるVisa Infiniteカードの採用だ。プラチナカードを上回る最高ランクのこのカードは、年間利用額に応じた最大11万円相当の継続特典に加え、SBI証券でのカード積立で最大6%のポイント還元を提供する。メタルカード、専用コンシェルジュデスク、プライオリティパスといった従来のプレミアムサービスに加え、「世界で一番有名なスポーツの世界大会やサッカーの世界大会への特別招待」(大西社長)など、これまでにない希少体験を提供する。

 第二の軸が「フレキシブルコンサルティング」と名付けた新型相談サービスだ。24時間365日対応のAIチャット、スキルや得意分野から選択できる人的コンサルタント、そして「Olive LOUNGE」での対面相談を、顧客が自由に組み合わせて利用できる。「資産運用、保険、相続、税務、不動産など、お客さまのお金にまつわるお悩みは多岐にわたる」(大西社長)という課題に対し、各分野の専門家からなる「あなただけの専門家チーム」をOlive上で創設し、ワンストップ対応を実現する。

クレカ積立を上限の月間10万円行った場合、6%のポイント還元は年間7万2000円相当の還元となり、従来のプラチナカードの年会費を大幅に上回る価値を提供する

 具体的な利用イメージとして大西社長は、50代後半の現役世代の例を示した。「平日は通勤中などに残高や株価の推移をアプリで確認し、朝のニュースや市況についてはチャットで質問。昼休みにはビデオチャットでいつもの担当者と相談し、大きな決断が必要な場合は休日にOlive LOUNGEで対面相談を受ける」。デジタルネイティブでありながら専門的な相談も重視する新しい顧客層のライフスタイルに合わせた設計となっている。

 サービスの詳細な料金体系は明らかにしていないが、コンサルティングサービスや年会費について無料となる条件も用意する方針を示している。

「Infinite(無限)」の名称は、従来の金融商品の枠を超えた包括的サービスを象徴しており、単なるカードブランドではない総合金融プラットフォームとしての位置付けを表している

夫婦がそれぞれ「700万円」稼ぐ……? 「デジタル富裕層」とは

 今回のサービスが狙うのは「デジタル富裕層」と呼ばれる新興顧客層である。この層は従来の金融業界の顧客分類では捉えきれない特徴を持つ。日興証券をはじめ他の証券会社も、新しいデジタル富裕層には十分にリーチできていないのが現状だ。

 デジタル富裕層の実態は、年収700万円以上の共働き夫婦、いわゆる「パワーカップル」の急増と密接に関係している。ニッセイ基礎研究所の調査によると、夫婦ともに年収700万円以上の世帯は急増し、2024年には45万世帯に達した。共働き世帯の2.9%を占めるこの層は、将来的に純金融資産5000万円以上の準富裕層に到達する可能性が高い「富裕層予備軍」として注目されている。

コロナ禍でリモートワークが普及した2020年以降、時間と場所に縛られない働き方が可能になったことで、「デジタル富裕層」が急増した

 この新興層が抱える課題は、既存の金融サービスでは解決が困難だった。従来の対面証券では、営業時間が限られ、平日日中に働く共働き夫婦には利用しにくい。一方、手数料の安いネット証券では、複雑な資産運用や税務相談、相続対策といった専門的なニーズに十分対応できない。「忙しいし、ある程度は自分でやれる。でも、アドバイスを聞きたい場合もある、という方が結構いる」。

 デジタル富裕層は日常的な取引は自分で完結させたい一方、専門的な判断が必要な場面では質の高いアドバイスを求める。20代から40代が中心のこの層は、スマートフォンを使いこなすデジタルネイティブでありながら、将来への資産形成には真剣に取り組む。

 具体的には、外資系コンサルティング会社や大手IT企業に勤める30代夫婦で、世帯年収が1500万円、子ども2人を育てながらも老後資金や教育費への投資意欲が高い――といった層が典型例となる。この層は従来の「高齢富裕層」とは異なる価値観とライフスタイルを持ち、金融機関にとって新たな成長市場として浮上している。

 野村総合研究所の調査では、準富裕層(純金融資産5000万円以上1億円未満)は2023年時点で約403万9000世帯存在する。政府の資産所得倍増政策により個人投資マネーが急拡大する中、この準富裕層への到達を目指すデジタル富裕層は、金融機関にとって最重要ターゲットとなりつつある。

野村総合研究所の「日本の富裕層」調査より。準富裕層の403.9万世帯は全世帯の約7%に相当し、新NISA制度により今後5年間でこの層への「押し上げ効果」が期待されている
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