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「メモリ32GBモデルが急激に増えている」──日本HPが明かすAI PCの“異変” 大容量メモリが必要なワケ

» 2025年02月21日 12時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 「いま、メモリ32GBのモデルがラインアップの中で非常に増えてきています」──こう話すのは、日本HPでPCなどの製品を担当する岡宜明部長だ。

 2024年には米Microsoftが旗振り役となり、HPを含むPCメーカー各社が米QualcommのSnapdragon X Elite/Plusを搭載した「Copilot+ PC」を投入したのが重要なトピックの一つだった。

 このCopilot+ PCの最小要件は、AI推論の演算装置である「NPU」(ニューラル・プロセッシング・ユニット)の性能が40TOPS(1秒間に40兆回の演算)以上であること、メモリがDDR5の16GB以上であること、ストレージが256GB以上のSSDもしくはUFSであること──の3点だ。

 Copilot+ PCブランドの発表当初は特にNPUの性能を満たすのがSnapdragonのみで、米Intelの「Core Ultra」や米AMDの「Ryzen」はNPUこそ搭載するものの40TOPSを満たせず、Copilot+ PCとはならない状況だった。しかし24年末から2025年にかけて両社とも40TOPS以上となるチップ(Lunar Lake、Strix Point)を投入してきた。

 ここまでがCopilot+ PCのプロセッサ周りの動向だが、一方で岡氏が言うには、メモリはCopilot+ PCの最小要件となる16GBよりも2倍大きな32GBのモデルが増えてきているのだという。

 Copilot+ PCを含むAI PCの2025年の動向について、日本HPが1月から2月にかけて各地で開催したイベント「HPパートナーロードショー2025」の中で岡氏にインタビューした。

日本HPの岡宜明部長(パーソナルシステムズ事業本部クライアントビジネス本部CMIT製品部)(撮影:井上輝一、以下同様)

法人がCopilot+ PCを導入できる下地が整ってきた

 「法人向けの次世代Copilot+ PCが出てきてから、お客様(企業)の興味が爆発的に伸びているような印象を受けています」と岡氏は言う。従来のSnapdragon搭載機はARMアーキテクチャであることから、企業導入においてはいくつかの課題があった。

 まず一つは互換性の問題だ。これまでのx86アーキテクチャ(Intel・AMDのCPU)とはアーキテクチャが異なるため、x86のソフトウェア資産がそのまま動くとは限らない。MicrosoftがCopilot+ PCの発表に合わせて、ARMマシン上でもx86の資産を動かせるようにするエミュレーションエンジンをOSに搭載したが、それでも完全に互換性があるわけではない。

 WebブラウザやMicrosoft Officeなど、主要なビジネスアプリはARMネイティブ版が提供されているものの、業種業態によってはより専門的もしくは特化なアプリが必須になる場合もある。そういったアプリが動作しない場合、その企業がARMマシンを選ぶのは難しくなってしまう。

 次に挙げられるのが、エンタープライズレベルの端末管理プラットフォームの有無だ。Intelであれば「vPro」、AMDであれば「Ryzen PRO」がセキュリティ・端末管理に対応するプラットフォームとなるが、Snapdragon搭載機にはこうしたものがなく、「法人向け」とは言い難かった。

 そんな中、特にIntelはvPro対応版の「Core Ultra 200V」シリーズを2025年1月に発表。200VシリーズはNPUも40TOPS以上の性能となるため、「真の法人向けCopilot+ PC」の登場まで間もなく、という状況なわけだ。

「Core Ultra 200V」シリーズはNPUが40TOPS以上でCopilot+ PCの条件を満たす

 さらにはWindows 10のEOSが10月に迫るという状況もある。これらを見据え、企業がCopilot+ PCの導入に意欲を示しているというのが岡氏の弁。中でもメガバンクが、これまでWindows 10のマシンだったところからCopilot+ PCまで一気にジャンプアップしようとしている例もあるという。

 なぜ金融機関がCopilot+ PCを検討するのか。それはやはり、セキュリティの観点からAIのローカル実行に可能性を見出しているからだという。「社内検証に1年ほどかけて互換性のチェックなどをしていくので、そういう意味でも数年後にローカルAIを動かす検証を今から始めないといけないと考えていらっしゃるようです」(岡氏)

 こうしたローカルAIの検証の上でも、岡氏は「最低でも32GBは必要」と語る。

企業のOS移行には平均して440日が必要という

メモリ32GBが必要な「AI活用」シーンとは

 「当社として、先行して提供しているモデルがハイエンドだからというのもあるのですが、Meteor Lake(Core Ultra シリーズ1のコードネーム)のラインアップでも32GB搭載機の割合がここ数カ月ですごく上がっています。やはりAIのローカル実行などを試してみると、これくらい必要となるかと」

 実際、大規模言語モデル(LLM)をローカルで実行する場合にはメモリがカギになってくる。外部GPUを搭載している場合はGPU向けのビデオメモリが重要だが、CPUやNPUでAIを実行する際にはメインメモリにAIを載せて実行することになるため、メインメモリの容量=載せられるAIのモデルサイズ=実行できるAIの性能、という図式になる。

 実行速度の面ではTOPS(1秒当たり何兆回の演算が可能か)が指標になるが、TOPSが良くてもメモリにAIが載らなければそのAIの実行はできない。こうした面から、演算性能だけでなく、メモリ容量にも今後注目が集まっていきそうだ。

基本性能はPCメーカー間で差がなくなりつつあるが、HPはどう差別化する?

 Copilot+ PCの要件をMicrosoftが定義したことで、ノートPCの高性能化も進んだ一方、その要件をクリアできるPCに入れるCPUやメモリのバリエーションは必然的に限られてくる。その結果として特にSnapdragon搭載機では「どのメーカーを選んでもほぼ同じ」という印象もあった。

 Core UltraやRyzen AIもCopilot+ PCの選択肢にこれから入ってくるが、それも基本的には各メーカー共通だ。日本HPとしての特色をどう打ち出していくのかという問いに岡氏は「独自のセキュリティ機能を搭載する他、日本市場のニーズに対応するべく『軽量化』を重視した製品開発を行っています」と話す。

 セキュリティに関しては「Wolf Connect」という独自のMDM(モバイルデバイス管理)を搭載。PCの紛失時などに、管理者が遠隔で情報を消去することなどが可能だ。特に日本向けには「HP eSIM Connect」というモバイル通信につなぎ放題のサービスも提供しているため、遠隔操作も柔軟に行いやすい。軽量化に関しても日本市場からの要求が最も厳しいため、その要件を満たせるように日々開発しているという。

 日本HPはこうした要件を満たすIntel版のCopilot+ PCとしては、まずは「HP Elitebook X G1i」を2月末に投入する予定。重量は約1.18kgながらバッテリー駆動時間は約20時間をうたう。

Intel版Copilot+ PCとなる「HP Elitebook X G1i」

 同社に限らず、独自色を打ち出したx86のCopilot+ PCが次々登場してくるのがこの2025年になりそうだ。ビジネスに必要なPCの性能を再考する時期が来ている。

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